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『菌と喀血と俺~ワイバーンの華麗なる結核ライフ~』

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初恋



ずいぶん前の話だ。




陽気な生まれ故郷を離れ、遠い神話の国へと連れてこられた俺は、まだ善悪の判断もつかぬ年端もいかないガキだった。

遠い祖国から引き離された心細さも寂しさも感じる暇のない、修練の日々。


目的なんてよく知らなかった。
異教の神を崇拝せよ、見た事も無い女神を護る為にその命を投げ打てよと突然言われても、鈍いガキの俺に使命の何たるかなど分かるはずもない。

同じ頃に集められた同期の連中や三歳上の先輩達は皆異常…いや特殊な能力を備えていた。
俺はというと特別な才も無いと自覚していたから、とにかく恵まれた体格を更に生かす為の修練漬けだった。
毎日、毎日、走り、破壊し、闘い、倒し、疲れ果て、泥のように眠る。
両親の顔も知らない俺は、自分の居場所はここにしか無いのだと必死だったんだ。


あの日も、誰よりも早く修練場へ行ってやろうと早起きして、まだ冷たい朝の空気を思い切り吸い込みながら走りこんでいたっけ。
しばらくするといつも通りシュラがやってきて、少し離れた場所で柔軟を始めて。
大あくびをしながらミロがおはようを言いにやってきて、カミュも静かにジョギングに参加する頃、東の地平線から太陽が顔を出す。

そんないつもの朝の光景。

でも、その日は少し違っていた。


「皆、集まりなさい」

「教皇さま!」

威厳のある、けれど優しい声で俺達を招集したのは教皇だった。
こんなことは俺がここに来てからは初めての事で、何が起こるんだろうと少し恐ろしかったのを覚えている。
けれど用件はちっとも恐ろしくなんかなくて、ただこれで(候補生含む)十二人の黄金聖闘士が揃ったのだと告げられただけで。

ふうん、そう言えば隣が空き家だったっけ。
仲間がもう一人増えるんだなあ。
その程度の感想だった。



そして次の日に、事件は起きた。
いや、事件というべき出来事でもないのかもしれんが、俺にとっては事件そのものだった。


その日も、俺は前日より早起きをして修練場に向かったんだ。
まだ暗い広場でダッシュを繰り返して、一息つこうと草の上に座り込んで。
東の空が淡い紫とオレンジに少しずつ染まるのを見てた。
綺麗だなあって、思って見ていた。
きらきら光って空が滲むから、何度か瞬きしてみたけど、滲むのは止まらなかった。
おかしいな、何だろうと思って目を凝らしているうちに、それは透明な人の形を象っていったんだ。

光の帯をまとった、天使が降りてきたのかと思った。
長い髪を結わえた後姿。
わずかに見えた横顔はまるで故郷の教会で見たマリア像のようだった。
華奢な体は重力が無いみたいにふわりと浮いていて、払えば幻のように消えるに違いなかった。

なんて綺麗なんだ。

目も口も開いたままの俺は、1ミリでも動いてしまったらきっとこの女神は消えてしまうだろうと信じて指一本動かせず。
ああ、そうだ、きっとこれが俺の護るアテナというやつなのだろうと。

この娘を護る為に、俺は生まれてきたのだろうと確信を得て。




確かその後すぐ教皇がやってきて、女神は恥ずかしそうに教皇の法衣の裾を掴んで隠れていた。
俺は、自分の仕えねばならぬ神が仕えるに値する…むしろ自ら命をかけて護りたいと思わせてくれる相手であった事に深い喜びを覚えていて、その感傷に浸るのに夢中で周りの話や状況なんてちっとも聞いちゃいなかったのだ。




だから、その天使のような姿を空き家のはずの隣家で見かけた時、俺は死ぬ程驚いたのだ。




女神は、俺のマリア像は、アリエスの聖闘士だった。




あの衝撃は、忘れられない。

そして、その衝撃を受け止めるだけで精一杯で、隣人が男である事にすら気付く余裕も無かった。






情けない話だが、あれが俺の初恋だったのだろう。
男であるムウ相手に、ガキとはいえ愚か過ぎると今でも思う。






この話は他言無用で頼む。
続きはまた、今度な。













続く。


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プロフィール
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龍峰&お竜
性別:
非公開
自己紹介:
龍峰:ラダ最愛のパンドラ様。
お竜:ミロ最愛の浮気性。

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