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『菌と喀血と俺~ワイバーンの華麗なる結核ライフ~』

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 いやぁ、驚いたな。


 ラダマンティス(俺はラダちゃんとかラダとか呼んでっから、その呼び名でいいよな?)が奴直属の部下・バレンタインに助けられて再び病院送りになってから2日後、俺はラダの病室に居た。


 排菌は治まってきているらしいが、それでも当然の如く特別マスク(N95微粒子マスクとかいうやつ)着用だぜ?


 ま、俺の場合、俺から女の子に感染…なんてのもイヤだしさぁ。


 まぁとにかく、俺はラダの病室の窓際の壁に背もたれて、立ったままラダと話していた。




 
 いやホントに参ったぜ。


 ラダがここから抜け出したとわかると、それこそ我がハーデス軍、全軍に知れ渡る程大騒ぎになったんだからな。手隙や非番の冥闘士を総動員して丸一日捜索に当たったが、とうとうその日には見つかりやしなかった。


 
 翌日。


 ラダの忠実なる部下・バレンタイン(こいつも名が長いんで、次からはバレに省略しちまうぞ)がラダを見つけ出さなきゃ、どうなっていたことやら。


 バレが己の上司をここに担ぎ込んですぐに、俺とミーノスも駆け付けた。


 彼──バレンタインは、ひどく自責の念に駆られている様子だったな。


 

 ミーノスから聞いた話なんだが。


 俺たちの前から立ち去った後、バレはここにやって来たルネとロビーで顔を合わせたそうだ。


 あまりに悲壮な態のバレに、ルネは近付くのを一瞬躊躇ったが、やはり心配なので声を掛けずにはいられなかったという。


 兎に角落ち着くよう、ロビーの椅子に座らせる。


「私が至らなかったばかりに…あのお方は……」


「え?何ですって?」


 やがてぽつりぽつりと、ラダを発見したときのことを語り出したバレンタイン…。






 


 上司を血眼になって探し回っていたバレは、第六獄の外れにラダの弱々しい小宇宙を感じ取ったという。

 
 ラダは、上空から落下してきたっていうじゃねーか。


 既の所で、バレはラダの身体を両手で確りと受け止めたという。


 

 …危なかったな。いくら冥衣を装着しているとはいえ、もし地面に叩き付けられていたら、病身でしかも気を失っていたというラダは今頃お陀仏だったかもしれん。


 バレンタインは話し終えると、それまで張りつめていた糸がぷつりと切れたように、ルネの肩に顔を押し付けて嗚咽し出したそうだ。


 「ラダマンティス様が……あのように……あんなにも軽く…お痩せになられて……たくさんの…血を吐かれて……。何故もっと早くに…私が引っ張ってでも医師に診せておくべきだった……」


 冥衣の重さをプラスしても、ラダの肉体の軽さを痛感するには十分だったらしい。


 

 
 泣きながらルネの胸を拳で叩き続けていたバレの肩は小刻みに震えていたっていうし。

 
 よっぽどショックだったんだろうな。


 敬愛して止まない上司の身体からは肉が削げ落ち、骨と皮みたいに(そこまではひどくないか…)なっちまってたんだからな。


 だがそうなったのは、バレンタインのせいではあるまいに。


 部下として、…ラダを慕う者として、責任を感じたに違いない。



 
 
 「おい、ラダ。良くなったらちゃんと礼を言え。それから謝れよ。お前の命の恩人にな!!」


 俺としては珍しく真顔で、ベッドに寝かされているラダをじろりと睨んだ。


 ラダはここ数日、また発熱しているとかでレトロな氷枕を頭の下に敷き、細くなった左腕には痛々しく点滴の針が突き刺さり、なんとも情けない……いや、憐れな様子を呈していた。


 見かけからして、立派な病人だ。


 「それとさー、俺ら以外にも、多大な奴らにメーワク掛けたこと、ちょっとどころかすんごく反省して欲しいんだけど?」


 俺は窓辺から離れ、腕組みをしてラダを見下ろすと、奴はまるで叱られた犬のようにしょんぼりとした。


 「す…まなかった……」


 喘ぎながら、かろうじて蚊の鳴くような声を出す。


 やれやれ、と俺はラダマンティスの額の汗を、その辺に掛けてあったタオルで拭いてやり、吸い飲みを使って水を含ませてやった……。


 


 


 と。


 カツカツと、高らかにヒールの音を響かせて廊下を闊歩する足音が病室内にも聞こえてきた。


 きたと思ったら。


 …思ったら!!




 バアァァァン!!!




 勢いよく、というより乱暴に、ドアが開かれた。


「…パンドラ様!!」


 俺は驚いて、慌てて跪き、頭を垂れた。

 
 だが多分、パンドラ様の眼中には俺の姿はなかった……と思う。


 病床のラダはというと、起き上がることも敵わず、けれども恐悦の面持ちだけは欠かさずに、何か言いたげに、苦し気に喘いでいる。


 つかつかと、ラダが横たわるベッドに近付いたパンドラ様は、わなわなと、肩と握った両の拳を戦慄かせた。そしてマスクを外すと、床に投げ捨てた。


 「あ。」と俺は思ったが…


 そのまま成り行きを、見守ることにした。


 パンドラ様は目にいっぱい涙を溜め、唇は震えている。


 …美しくも、それはそれは怖ろしい顔で、ラダに向かいこう言い放った。



「この……大馬鹿者めが!!!」



 ひゃあ~~、これは修羅場になりそうだぞ!と俺はふたりには悪いが内心わくわくして傍観を決め込んだ。


 パンドラ様は続けた。


「お前が倒れてからというもの、私がどのような気持ちで過ごしてきたと思っておる?毎晩毎晩、夢枕に立たれるのだからかなわん。『パンドラ様、お傍にお仕え致すことが敵わず、面目次第もございませぬ』。…お前は、いつもそう申しておるのだそ?だのに……一刻も早く復帰したいのであれば何故、そう無茶をするのだ?!皆にどれだけ心配を掛ければ気が済むのだ?!!!…お前が元気ならばその頬、引っぱたいてやりたいところだ!!お前など…お前など、もう知らん!また脱走するなり何なり、好き勝手にするがよい!」


 息もつかずに捲くし立てたパンドラ様の瞳からは、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。


 それを拭うこともせずに、身を翻して病室から走り去って行ってしまった。


 …いつの間にやらミーノスが、パンドラ様の背後に居たのだか、俺に目配せすると、パンドラ様を追い掛けて行った。


 

 一方、動けぬラダはというと。


 パンドラ様を引き留めることも、追うことも出来ぬのが非常にもどかしいらしく、さも悔しそうに顔を顰めた。

 

 

「…夢枕に毎晩って……そ、それって生霊じゃね?((((゜д゜;))))」


「むぅ…以前風邪で寝込んだ際(今思えば、これも結核からくる熱だったのかもしれん)、お見舞いに来て下さったパンドラ様に『たとえ死しても化けて出て参上仕ります』と申し上げたのだが、まことになったのか……」


「(゚_゚i)そ、そんなこと言ったんかい?!!! それじゃパンドラ様にうざがられるぜ…って、そーいうハナシじゃなくてだな!」


 

 ……はぁ~~。


 と俺は大袈裟に溜め息をつき、ラダをからかうよな目つきで見た。


「ど~するの~~?もうあれはマジでお怒りだったじゃん、パンドラ様」


「ど…どうしたら……とお前は言うがな、アイアコス……」


 絞り出すように声を出す、ラダマンティス。


「あのお方を、あそこまで怒らせてしまった…もう取り返しが……ごほっ、ごほっっ…つかぬかもしれん」


 途中咳き込み、呼吸を整えながら何とか言い終えたラダは、一寸ばかりカワイソウでもあるが。


「あー、もう!あんたってホンット、じれってーよなラダちゃん!今度お会いしたら、『ごめんなさい、許してください、私が悪うございました、もう二度と脱走とかムリ、ムチャクチャな行動はしません、心底反省しています、ですから何卒ご勘弁を!』って素直に謝ればいーじゃん!」


「そ、そうか?しかし…再びお目に掛かれるであろうか……パンドラ様は『お前などもう知らん!』と…」


 ここでまた、ゴホゴホと咳き込むラダに水を飲ませてから、俺は奴のベッドにどっかりと腰を下ろした。


「も~~~、バッカじゃねーの、このドンカンめが!!そしたら、どーして泣くのよ、パンドラ様。あんたのこと本気で心配してるから泣くんだろーが!ちょっとは女子の心、理解しろよな」


「そ、そうなのか……?」



 
 
 …どこまでも、ニブい男だ。


 まぁ、戦闘能力や指揮官としては非常に優れ、頼もしい奴だが……


 この辺が、放っとけないというか、ダチを止められない理由なんだがな。




 
 そうそう。


 パンドラ様の涙は、明らかにラダマンティスに好意を抱いているからだ…と俺は直感したが、その想いが兄貴に対するようなものなのか、恋の対象として奴を見ているのかまでは、いくら女子の扱いに慣れている俺とてさすがに解らん。何せ、あのパンドラ様なのだ。まるで氷の壁で心を閉ざしているかのような……。だが、ラダと居る時だけは、何処となく彼女に人間らしさを感じる。ラダにだけは、素の自分を曝せるのだろうか。兄として?恋人として?下僕として?いや、保護者ってこともあるぞ。いずれにせよ、パンドラ様があれほどまでに感情を露わにしたのを見たのは初めてだった。


 

 いやはや。


 まったく、驚いたぜ。














 同じ頃、病院内の別室では。



 パンドラ、ミーノス、ラダマンティスの担当医が、今後のラダマンティスの治療方針について謀議をこらしていた。

「ラダマンティス殿は、窓の外を見ては、溜め息ばかりついておられます。空を行き交う冥闘士たちが気になって仕方がない様子……任務に戻りたいお気持ちが余程強いのでございましょうなぁ」

「そうか…」

 医師の言葉にパンドラは小さく嘆息すると、あやつらしいな…とひとこと漏らした。

「それにここ冥界のどんよりとした空、じめじめとした空気は結核という病には良くありませぬ。やはりパンドラ様の仰せの通り、ちと荒療治が必要かもしれませぬな」

「転地療養という言葉もございますしね」

 ミーノスが頷きつつ、相槌を打った。

「よし。決まりだ。早速沙織…アテナに話を付けてみる」



 このような密談がなされていたことは、病室に居るラダマンティスは無論、知る由も、ない。



 話はとんとん拍子に進み、そして計画実行の日は、週末・土曜の午前中と決定したのだった。





 

  

 
 
 三者での合議を終えた後、病院の中庭のベンチに、パンドラとミーノスは並んで腰を下ろした。

「先程は取り乱して済まなんだ、ミーノス」

「いえ…」

 素直に謝罪するパンドラに、ミーノスは恭しく一礼した。

「ですが…よろしいのでございますか?ラダマンティスを地上に送り出してしまいましても……」

「…何ゆえ、そのようなことを問うのか?ミーノス」

「お寂しくは……ございませぬのか?」

 パンドラははたと顔を上げ、ミーノスを見つめた。

「何を申す!あやつは……ラダマンティスはこの冥界にはなくてはならぬ存在…三巨頭のひとりなのだぞ。早々に復職してもらわぬと困るのだ。それ故、治りが早いであろう地上へと行かせるのだ。寂しいなどとは思っておらぬ!」

「でしたら、よろしいのでございまするが…」

 少しばかり頬を紅潮させて横を向いたパンドラのツンデレ振りを、ふふ…お可愛らしいな、とミーノスは彼女に気付かれぬよう微笑したのだが、すぐにその笑みを打ち消し、表情を引き締めたのだった。








 


 ラダマンティス地上移送計画実行予定の土曜日。

 土・日はここ冥界病院の面会時間も午前11時からと、平日よりも4時間早い。

 
 ミーノスは午前11時を少しまわってから、ラダマンティスの病室を訪れた。


 
 ドアが少し開いていたので、そっと中を窺ってみると……


 
 この日、ラダマンティスは幾分気分が良いのか、上半身をベッドに起こしていた。
 
 彼は切なそうに、オブジェ形態で室内に安置されている、ワイバーンの冥衣を見つめている…。

 脱走事件以来、せめてもの慰めにと大型ロッカーにはしまわずに、病室に飾ってあるのだった。


「こんにちは、ラダマンティス」

「…おぅ、ミーノス。来てくれたのか」

 ラダマンティスは冥衣から視線を外し、嬉しそうに友を迎え入れた。

 ミーノスは、窓際に見舞客用の椅子を置き、腰を下ろした。



「ご気分はいかがですか?」

「ああ。午前中は比較的良いのだがな。午後は熱っぽくなり、どうもいかん」

「まぁ、そう焦らずに。気長に構えてください」

「気長に……か」

 とぽつりと呟くと、ラダマンティスは少し寂しげに笑った。


 
「洋ナシ、剥きますね」

 ミーノスは持参した見舞いの品を、流麗な手つきで剥き始めた。

「ああ、すまんな。だがあまり食欲がなくてだな……」

「まだ食が進まないのですか?」

「こうして動かずにじっとしておると、腹も減らぬ…」

「きちんと食事を摂りませんと、治るものも治りませんよ」



「食わないんなら、俺が貰っちゃうよ~」

 声の持ち主は、ドアをノックもせずに入って来たアイアコスだった。

「…珍しいな。土日でも、我ら三巨頭の一人や二人は勤務しておると申すのに……」


 
 意外そうな顔をしたラダマンティスは、ミーノスとアイアコスの真の訪問の理由を知らない。


 
「この後、裁きの館に出勤しますよ」 

「俺も午後から、アンティノーラに顔出してから、外回りさっっ!」

 アイアコスがベッドの下のスツールを引っ張り出しながら明るい調子で言うと、ラダマンティスは熱くなった目頭を押さえてから、ベッドを挟み左右に座るミーノスとアイアコスの手を固く握り締めた。

「すまんな、二人共。俺が不在の分、余計な仕事が増えたのではあるまいか?」

「そっそんなことないって!!!(いやホントはあるけど!)大丈夫だからさー、ゆっくり養生してよ、ねっっ?」



 
 時刻は、そろそろ昼の12時になろうとしていた。

 昼食を乗せた配膳車の音が近付き、「ラダマンティス殿~、お食事ですよ~」と、看護師らしき声が聞こえた。

「お。メシだってさ。取って来るよ」

 アイアコスが立ち上がり、昼食の盆を受け取ったのち。




 

 突如として。




 
 ビリビリビリビリ、バチバチバチバチ!!!!!




 
 
 
 まるで静電気が弾ける様な音が鳴り響き、ワイバーンの冥衣が緋色の発光に包まれ、宙に舞い上がった。


「な、何だ……?!!!」

 驚愕の余り、ベッドから飛び降りようとしたラダマンティスを左右からがしっ!と押さえ付ける、ミーノスとアイアコス。

(ミーノスがコズミックマリオネーションを使わなかったのは、ラダマンティスの体調を気遣った為である)

「何をする、お前たち……!!!」

 ラダマンティスは抵抗するも、二巨頭に両腕を掴まれているのだから、ましてや病身では振り払う力も出やしない。


 
 彼が成す術もないまま呆然と見守る中、あれよあれよという間に、翼竜の冥衣は最期の足掻きのような閃光を放ち、病室から忽然と姿を消した。



「お前たち!何を企んでいやがる!!」

 大声を張り上げたせいか、ラダマンティスはゲホゲホと咳き込んだ。

「まあまあ。抑えて抑えて」

「そうですよ、落ち着いてください」

 ミーノスが背を擦りながら、なだめる。

「このような事態でどう落ち着けというのだ?!!!」 

「はい。パンドラ様からのラ・ブ・レ・ター♪」

「ななな、何いぃぃ?!!!」

 
 目前で消えた冥衣の行方も勿論!!!!!気になるが、ラダマンティスは、アイアコスがひらひらとまるで扇子のように手首を動かしながら持っていたパンドラからの『ラブレター』を、「何という乱暴な扱いをしやがる!」とばかりに奪い取った。

 
 ペーパーナイフを使い、中身を傷付けぬよう慎重に封を切る。


 高鳴る胸の鼓動を抑えながら、拝読してみると……



『天猛星ワイバーンのラダマンティス。地上での転地療養を命ず。依って、冥衣は不要となる為、一時没収せよとのハーデス様のご意向を伝う。然る可き後に返却致すゆえ、心置きなく治療に専念するがよい』 


「な……なんと!!!」

 
 読み終えるなり、ラダマンティスは絶句した。

「冥闘士の命である冥衣を没収とは…あまりに酷うございます、パンドラ様。もはやこのラダマンティスは、貴女様にとりまして用無しと仰られるのでございまするか……」

「…パンドラ様じゃなくって、冥衣取り上げたのはハーデス様だろ?」

「……洋ナシを持参しましたのは、厭味でしたかねぇ…」

 
 
 二巨頭がぼそぼそと会話している中、まるで萎れた花(と果して言えるだろうか?)のようにベッドの上で項垂れていたラダマンティスは。

 再び、パンドラ様からの書状に目を通してみる。

「転地…療養とは、一体どういうことなのだ?!!!」



 
 

 その時。



















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プロフィール
HN:
龍峰&お竜
性別:
非公開
自己紹介:
龍峰:ラダ最愛のパンドラ様。
お竜:ミロ最愛の浮気性。

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