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『菌と喀血と俺~ワイバーンの華麗なる結核ライフ~』

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「だいたいさ~、ラダマンティス様は自分の事大事にしなさすぎ!」





「確かにな・・・」







手に手に『陰性』と書かれた診断表を持って。



シルフィード、ゴードン、クイーンの3人はため息をつきつき病院のロビーで黄昏ていた。











「俺たちには色々うるさいくせにさ!風邪気味なら早く帰れとか無理するなとかさ~」





クイーンが呆れたように天井を見つめてぼやく。







「全くだ」







ゴードンは頷いて腕を組み直し、隣のシルフィードに目で同意を求めた。







シルフィードは何も言わずぶんぶんとかぶりを振ると、診断表をクシャクシャに丸める。



そしてそのままポイ、と投げたところで頭を軽く叩かれた。







「いて!」







「こら。その診断表はのちのち提出するんだぞ」







見上げればバレンタインが憮然とした表情で3人を見下ろしていた。







「お、バレンタイン!どうだった?」







どうだったも何も、と軽くため息をついてバレンタインも長椅子に腰掛ける。



ひらり、と投げ渡された紙には当然のように『陰性』の文字。







「だよな~」





3人は顔を見合わせ、がっくりと頭を垂れた。







「あ~あ。俺、ラダマンティス様の居ない日々なんて、耐えられそうにない…」





クイーンの台詞に一斉に頷くゴードンとシルフィード。







「俺も結核になりたかった…」





「俺も…」







「おい!一番お辛いのはラダマンティス様なのだぞ?不謹慎な発言は慎め」







バレンタインは少々強めの語気でそういうと、すっくと立ち上がった。







「ん?バレ?」





どこへ行く、と問う同僚達を置いてバレンタインはさっさと出口へ向かう。







「ラダマンティス様のお留守を守るのは俺達以外にあるまい。愚痴る暇はないぞ」





「あ、自分ばっかずるい!」









追いかけようと3人が立ち上がった頃にはもう、バレンタインはジュデッカへ向けて空に消えていた。

























































同じく第二獄の外れにある、病院の3階では。

















「翼竜殿。これだけは守っていただく。よろしいか」









「…あいわかった。守れば、早く治るのだな?」









「その通り。急がば回れ、ですよ」









それまで厳しく目を細めていた医師が、ふっと頬を緩ませる。





ラダマンティスも眉間に寄せていた皺をようやく引っ込めた。





















先日、医師から肺結核の告知を受けた後しばらく人の訪れを拒んでいたラダマンティスが、ようやく医師の再訪を受け入れたのはあれから2日経ってからだった。









自分の病を受け入れられず、看護師の世話も医師の診断も何もかも拒んで病室に引きこもって。



だがさすがに彼も人の身、咳の酷い体に喉の渇きは耐えかねた。









久しぶりに含む水分に感動しているラダマンティスを尻目に、看護師がサイドテーブルに薬を置いて事務的な説明を繰り返す。







「ラダマンティス殿、よろしいですか?必ずこの4つの薬を昼食後に飲まなければいけません。今日はもう昼食時間は終わってしまったので、とにかく今飲んでください。これを飲まないと、治りませんよ」







「む…」









薬など。







そんなもの飲まなくても、治してくれるわ。







俺は、三巨頭の一人、ワイバーンなのだぞ?









一向に薬を飲もうとしないラダマンティスにしびれを切らした看護師が医師を呼びに行って半刻のち。



先ほど記したやりとりが交わされ、ラダマンティスはようやく薬を口にしたのだ。













医師との約束はこうだ。







1.4種類の薬を必ず毎日飲むこと



2.排菌が治まるまでは勝手な行動を取らないこと



3.医師や看護師の指示に従うこと







治療する側としては、最低限の条件。



だが、この患者にとっては、最高の譲歩。











『手のかかる患者になりそうだ…』





医師は内心呟いたとか呟かなかったとか。











































そこからの生活は、文字通り彼にとって『地獄』であった。





いや、ここは冥界第二獄なのだから、まさしく地獄ではあるのだが。





いやいや、さらに言えばその生活とは実に穏やかな時間の流れる優雅とも言える生活で。







地獄と呼ぶにはあまりにもかけ離れたものだったのだが…しかし、ラダマンティスはいつになく苦しんでいた。



















もちろん、病状は当初深刻だった。





夜になると咳が止まらずとても眠るどころではない。


熱もぐんと高くなり、一晩で数回入院着を取り替えねばならぬ程、ひどく発汗する。

背中から腰にかけての痛みは最初尋常でなく、寝返りを打つことすら難しかった。


痛み自体は数日で治まったものの、いまだ背中の筋肉が緊張からかキリキリとよじれる。

薬の副作用からなのか、めまいが時折襲うし関節も痛む。









しかし数日経つにつれ、咳止めのおかげで夜も徐々に眠れるようになってきていたし、副作用もだいぶ付き合い方を覚えて日中の生活にはある程度支障を来たさなくなってきていた。







だが。























「~~~~っ!!体が、鈍る!!」



















ぼすん。









ベッドの上、白い上掛けに拳を突き立てて。





ラダマンティスは、痛む喉に顔をしかめつつそう独りごちた。

















医師は何やら言っていた、ガフキーが10号なので絶賛排菌中だと。





 排菌だと?

 何とも嫌なコトバだ!!

 ラダマンティスは忌々しげに、ちっ、と舌打ちした。

 排気ガスではあるまいに。


人を菌呼ばわりしおって!!



・・・いや。

今の俺は、結核菌を撒き散らしているらしいのだから、致し方あるまいか・・・・・・。







だから出歩くのは厳禁だし、人と会うなど以ての外だと。











・・・理屈では分かる、分かっているのだ。





だが、俺はワイバーンのラダマンティスなのだ。







目に見えぬ結核菌などに、何故振り回されねばならんのだ!



俺は、矮小なものに負けたりはせん!















ギリギリと歯軋りをしたところで、慣れ親しんだ不快感が喉の奥から突き上げてくる。







「・・・っげほっ!!ゴホッ!!」







湿った咳はまるで勝ち誇ったように俺の背を丸まらせる。



一度熱を持った胸は、なかなかその勢いを止めてはくれない。



悔しさに、情けなさに、俺はもう一度白いシーツに拳を当てた。































ようやく咳が治まり、ラダマンティスは水差しからグラスに水を注ぎグイと飲み干した。









ハア・・・









息をついてふと目をやれば、窓の外には見慣れた黒い空が広がっている。



昼も夜もないここ冥界の空は、ラダマンティスの入院生活を味気なくするのに一役も二役も買っていた。







今の咳で乱れてしまった入院着をそのままに、ラダマンティスはごそごそとベッドを這い出た。



そしてふらふらと窓べりまで近付く。













真っ黒な空。





少しだけ空いている窓の隙間からは、これも聞き慣れた亡者達の遠い哭き声。



眼前には冥界唯一の花畑が嫌味なほどに美しさを誇っている。







ラダマンティスはもう何度この部屋でついたか分からないため息を盛大について、額を窓ガラスに押し当てるのだった。












































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プロフィール
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龍峰&お竜
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非公開
自己紹介:
龍峰:ラダ最愛のパンドラ様。
お竜:ミロ最愛の浮気性。

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