『菌と喀血と俺~ワイバーンの華麗なる結核ライフ~』
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或る日。
唐突に生家が恋しくなった冥王ハーデスは。
己の小宇宙を消して、地上のハーデス城を訪れました。
パンドラ達に気付かれぬよう、抜き足、差し足で小屋根裏部屋を目指し…、
「おお!!まだ残っておった!懐かしのぅ……」
と、『魔法の鏡』に長い年月の間に積もった埃を払うと、自身の姿を映してみました。
「ふふ…。余が幼き頃は、パンドラと『鏡よ鏡、冥界でいちばん美しいのはだ~~れ?』などと、よく遊んだものだったな……」
すると。
『それはパンドラ様でございます』
鏡は答えました(ずっと放っておかれても、魔法は機能していたようです)。
「な…なんとっっ!!!Σ(゚д゚;)」
ハーデスは、少なからずショックを受けました。
自分の容姿に絶対の自信を持っていたからです。
ダダダダダー、と、小屋根裏部屋からの階段を駆け降り。
城内の、パンドラの私室の扉をバーーーンと開けました。
「ハ、ハーデス様!何時の間に地上においでに……」
「…パンドラ。別居しようではないか…」
…別居って、ハーデス様。
貴方、殆どエリシオンにいらっしゃいますのでは……( ̄□ ̄;)
「ハーデス様の仰せとあらば、致仕方ございません。わたくし、お暇させて頂きます」
パンドラは荷物をまとめ、ハーデスに深々と頭を下げると、城を後にしました。
窓から少しさみしそうにその様子を伺っていたハーデスは。
アイアコス(=猟師)を召喚しました。
「…なんで俺が猟師の役なんですか~、ハーデス様」
開口一番、アイアコスは君主に向かってぶーぶー文句を投げ付けました。
「仕方がなかろう。ラダマンティスはパンドラを殺めなどせぬと断言出来るし、ミーノスは後で出番があるのだ。お前しか適任者はおらん」
「そ、そーすか?;で。パンドラ様殺して肝臓持って来りゃいいんでしょ?」
「左様である……しかし、アイアコスよ。卿のその言葉遣い、何とかならぬのか…;」
「すいません、俺、天然なんで」
その天然さを許してしまう、寛大な、偉大なるハーデス……
ジーク マイン カイザー!(違;)
「ハーデス様はああ仰ったけどさーー、俺だってパンドラ様を殺すなんて事、無理・ムリ・むり!!!!!」
そこでアイアコスは、街の肉屋に立ち寄り。
「すいませーん。牛レバーくださーい!」。
ハーデスに、肉屋で買い求めた牛レバーを差し出したのでした。
「うむ。大儀であった!」
アイアコスを労いつつ、
(パンドラ……とうとう、このような姿になってしまったか…)
と、ぼろぼろと落を零すハーデス……。
貴方、ひょっとすると自分を育て、慈しんでくれたパンドラを姉として愛しているのでは…^m^
一方。
ハーデスから別居を告げられたパンドラには行く当てがありました。
「男子ばかりでむさくるしそうな処ではあるが……ハーデス様のご機嫌が直るまで、我慢致すか」
ハーデス城から少し離れた深い森に建つ、一軒の小屋……とは呼べぬなかなか立派なログハウス。
そこには、主にラダマンティスの部下たちで結成された、寄せ集めの『六人の巨人と一人の小人』が顔を合わせていました。
シルフィード 「ハーデス様の気紛れにも困ったものですねぇ……」
バレンタイン 「…我らはラダマンティス様に絶対の忠誠を捧げておるが、真の君主はハーデス様であったな…」
ゴードン 「バレ。忘れてたのか?…ってまぁハーデス様はいつもエリシオンでお眠りだしなぁ」
クィーン 「……俺は『巨人』の部類には入らぬと思うんだが;」
ゼーロス 「よろしいではございませんか。私などめは『小人』でございますよ )`ε´( ブーブー」
ルネ 「…私など、頭数揃える為にわざわざ召集されたのですよ……・°・(ノД`)・°・」
ミュー 「ドアを叩く音が!も、もうあのお方がおいでに…((((゜д゜;))))」
ミューの言葉に、その場に居合わせた全員が凍り付きました。
案の定、ドアの外に立っていたのは、大きな荷物を持ったパンドラでした。
「今日からここで世話になる。皆の者、よろしく頼む」。
元々、お姫様育ちのパンドラは。
両親が健在の頃は、使用人に傅かれ、冥王の現世での姉となってからも、冥界の雑兵らによって上げ膳据え膳の生活を送って来ました。
ゆえに。
家事など殆ど出来ないに、等しいのです。
六人の巨人と一人の小人は。
公だけではなく、プライベートでも彼女に顎で使われる羽目となりました。
ああ、哀れな巨人たち+小人よ……。
或る日曜の昼下がり。
巨人たちと小人は休日出勤で皆、出払っているといいますのに。
パンドラは、ログハウスでひとり悠々と。
琴の師匠の来訪を待ち倦ねておりました。
「失礼仕ります。こちらは、冥王ハーデス様の姉君・パンドラ様のお宅に間違いございませんでしょうか?」
扉の外から、涼やかな声が響きました。
「私の家ではないが。私が滞在しておる家に違いはない。そなたが琴の名手だと申すオルフェか?」
「はっ。パンドラ様」
…このオルフェこそが。
ハーデスが遣わした、新たな刺客だったのです。
数日前。
再び、ハーデス城に姿を現したハーデスは。
上機嫌で、魔法の鏡に問い掛けました。
「鏡よ鏡、鏡さん♪冥界でいちばん美しいのは、誰だ?」
『それはパンドラ様でございます』
「な…何っっ!!!Σヽ((◎д◎;;))ゝ……で、では、パンドラはまだ生きて……!」
今度こそ。
パンドラを葬り去ってくれよう……ぞ。
い、いや。
殺害するのは忍びない…。・°・(ノД`)・°・
…ハーデスの決心は鈍く。
取りあえず、姉を永遠の眠りにつかせるよう、オルフェに命じたのでした。
(どうやら、ハーデスは肝心な事を忘れているようです。オルフェの必殺技『デストリップ・セレナーデ』は技を仕掛けられた相手が10日間余りしか眠りにつかない、という事を…;)
ログハウスでは。
オルフェが奏でる琴の素晴らしい音色に。
パンドラは何時の間にか、うとうとと眠りに誘われてしまいました。
夕刻 になり。
巨人たち+小人が帰宅して、いくら彼女を揺り起こしても。
パンドラが目を醒ます事は、決してありませんでした。。。
クィーン 「はぁ~~~、何かホッとしたって言うか。これで俺たち、こき使われることもなくなるんだなぁって……」
クィーンに同意して、一人を除く巨人たち+小人はうんうん、と首を縦に振りました。
バレンタイン 「滅多な事を言うものではないぞ、クィーン。……ラダマンティス様が、どんなにかお悲しみになられるかと思うと、私は…」
と、涙ぐむのはバレンタインのみ。
しかも、パンドラが目覚めぬからではなく、主(=ラダマンティス)を憐れんで涙する、といいます……σ(^_^;)
巨人たちと小人は、これまた取りあえず、ガラスの棺の中にパンドラを入れ、庭に飾っておきました。
(エンバーミングは為されなかったのか?との突っ込みが入りそうでございますが!笑)
棺を取り囲み、お義理程度に悲嘆に暮れていた巨人たち+小人の前に、葦毛の馬に跨り、銀色の、長い髪を靡かせながらノルウェーのミーノス王子が艶やかに現れました。
「ほぅ…これは、何とも美貌の姫ですねぇ……」
と、少しばかり気障に、感嘆の吐息を漏らしました。
が!
続けて。
「ですが私は、大変失礼ながら黒髪の女性は好きはありません。性格がキツく見えますので…。(※『銀河英●伝説』のキルヒアイスの台詞とほぼ同義)」
と、黒髪女子全員を敵に回すような本心も、遠慮なく口にしました(笑)。
「おや?……そこのあなた!」
ミーノス王子は、自身と同じ銀色長髪の、まるで少女のような見目形の巨人の一人に目を留めました。
「は?私でございますか?」
「名は、何というのです?」
「ル…ルネと申します、王子様……」
俯いて、どきどきと胸の鼓動を高まらせながら、ルネは名乗りました。
「申し訳ありませんが、私は白雪パンドラ姫よりも、このルネという巨人の方がどストライクで好みなのです。ルネ…私と一緒に参りませんか?」
「よ、喜びまして……」
ルネは含羞みつつ、承諾しました。そしてミーノス王子は、ルネを馬に乗せると手に手を取り合い、行ってしまいました。
次なる王子は。
白馬に乗ったギリシアのミロ王子。 その名の通り、ミロス島の海を彷彿とさせるロイヤルブルーの癖の強い髪と、空色のマントを翻し、颯爽と姿を見せました。
「おぉ、何と美しい姫なのだ。一寸冷ややかな印象だが、まるで月の精のような」
彼は諸人が抱くであろう、ごく自然な感想をさらりと口にしました。
ミロ王子は、白雪パンドラ姫に果してキスをするのでしょうか?
「しかし、私にはお仕え申し上げる沙織姫というお方が居られるのでキスは出来ん。……許せ!」
どうやら、ミロ王子には心に決めた姫が既に居たようです。
王子は馬から降り、棺の上に真紅の薔薇を一輪供えると、済まなさそうな面持ちで一礼してから、再び白馬に跨って行ってしまいました。
「次こそはきっと、我らがラダマンティス王子……真打ちのご登場だな!!」
ゴードンが期待を込めて目を輝かせると、一人を除く巨人たち+小人は跳び上がらんばかりに喜色を露わにしました。
シルフィード 「ようやく…ラダマンティス様の恋が報われる時が来たのですね……」
ミュー 「おふたりには、お幸せになって頂きたいものです」
クィーン 「…パンドラ様を早々に引き取って頂かないと;;」
ゼーロス 「……カカァ天下になりますのは、間違いなさそうでございますが。お可哀相なラダマンティス様ですなぁ。ケケケッ・・・」
ゴードン 「良いではないか!好いたお方と一緒になれるのだから…」
このような男子トークに参加しておりません人物が、ひとり居りました。
先程から押し黙ったのままの、バレンタインです。
さあ!いよいよ、大本命とも言うべき王子が……!
眉毛の繋がった、けれども精悍な相貌の、英国のラダマンティス王子が栗毛色の馬を美事な手綱さばきで操りながら、登場しました。
彼は馬を降り、白雪パンドラ姫の眠る、ガラスの棺に跪くと。
今にも落涙せんとばかりにうるうると瞳を潤ませながら、
「おおお……花も恥じらうであろう麗しいこのかんばせ、淡紅色の頬、滝のように流れる豊かな御髪…とても亡くなっているとは思えぬ。そ、その……だな。キ、キスしても……構わぬだろうか?」
声を戦慄かせて、ラダマンティス王子は巨人たち+小人に問いました。
「勿論でございますとも、ラダマンティス様!!!」
「さぁ、どうぞお早く、パンドラ様のお眼を醒ませて差し上げてくださりませ!!」
巨人たちがガラスの棺の蓋を取り…
そぅーーーっと、パンドラに顔を近付けるラダマンティス王子を見……、
「うわああぁぁ~~~!!!や、やはり……私には耐えられないいぃ~~~!!!!!。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。」
突如泣き出したバレンタインは、瞬く間に森の奥深くに走り去って行きました。
「…男色家だったのか、バレのやつ」
「そうらしいなー、って本人の自由だから別 にいんじゃね?」
「まぁ、そーだな」
同僚たちは淡々とした意見を口々に交わしました。
誰も、バレンタインの失恋を不憫がってはいないようです。
嗚呼!いとあはれなりけりバレンタイン……。
このような、一寸した(酷;)アクシデントに見舞われましたが。
ラダマンティス王子は、パンドラにキスするのを躊躇いまくりでしたので、最も忠誠心厚い部下の哀しみに気付く余裕など全くありませんでした(ますます、酷!;)。
「し、しかししかししかし、だな!!!パ、パンドラ様の唇を奪うなど…そそそ、そのような畏れ多いことを、俺がして良いものかどうか…!」
何とも煮え切らない漢・ラダマンティス。まぁ、愛しいひとを心底大切 に想っている証拠かもしれませんが。
あ~~~、もぅ、もどかしい・間怠こしい・焦れったい……!!
巨人たち+小人が内心いらいらしながら(笑)、今か今かとキスの瞬間を待っているところへ…
ところへ!
黒駒を疾風迅雷に駆らせ、炎のように燃える、熱い小宇宙を持った、日本の一輝皇子がやって来ました。
「さっきから歯痒いぞ、金髪の孺子。邪魔だ。どいていろ!」
「だ…っ、誰が金髪の孺子だ!!!」
一輝皇子は反撥するラダマンティスを退かせると、カンペを見ながら、台詞を棒読みしました。
「おぉ、清らかなる、美しき姫。俺のキスで目覚め給え!」
そしていとも容易く、白雪パンドラ姫にキスをしました。
「~~~~~!!!!!!!!!!」
「あああああ゛ッッ!!!」
金魚のように口をぱくぱく開けたまま、何も言えないラダマンティス王子。
今後の展開が怖ろしくて、言葉にならない声を上げた巨人たちと小人。
「…私を眠りから醒まさせたのは……お前か?」
瞼を開いたパンドラは、自身の顏のすぐ間近に迫っていた、一輝皇子に訊ねました。
「ああ、俺だ」
素気なく答えた一輝皇子は、ひらりと黒駒に飛び乗ると、さっさとその場を離れようとしました。
「ま…待て!お前、名は何と申すのだ?!」
「一輝だ。フェニックス一輝」
「い…一輝。私と夫婦(めおと)になってくれ……」
ひいいいいぃぃ~~~~~!!!!!(←※ラダマンティスと部下たちの、内心の声)
ラダマンティス王子と巨人たち+小人は、エドヴァルド・ムンクの『叫び』状態に!!!
「悪いが、俺の心には死んだエスメラルダしか居らん。では、さらばだ!…はっ!」
黒駒の腹を蹴り、一輝皇子はまるで嵐の如く、荒々しく土煙を巻き上げて去って行ってしまいました。
「…シルフィード!」
がばっと勢い良く上体を起こすと、パンドラは強い声音で巨人のひとりの名を叫びました。
「は、シルフィード、ここに」
「私を抱えて、フェニックスを追うのだ。急げ!」
「は…はっ!!」
シルフィードは命令されるがまま、パンドラの腰を両手で抱えると、一輝皇子の走り去った方角へ向かい、地を蹴って飛び立ちました。
……あんまりな事の成り行きに、暫し、ただ呆然と立ち尽くしていたラダマンティス王子でしたが。
「お、おのれ~~~、フェニックスめ!パンドラ様に口づけなどしおって!!…俺だって、俺だってまださせて頂いたことがないと申すのに!!!絶対に……許さぬ!!!!!」
込み上げてくる憤激に両の拳をぶるぶる震わせつつ、瞬時にして翼竜の冥衣を纏うと、一輝皇子とパンドラたちの後を追い、大空へ飛び去って行きました。
…取り残された巨人たち+小人は(随分人数が減りましたわねぇ)。
ミュー 「パンドラ様がいらっしゃらなければ男子ばかりの生活というのも気兼ねがなくてなかなか快適なものですね」
クィーン 「このまま住んじゃおうか?ルネはミーノス王子に見初められたから別として……、バレとシルフィード、戻って来るかな~?」
ゴードン 「それは分からんが…シェアハウスか。いいな!」
ミュー 「私は、料理を担当しますから。特にデザート、美味しかったでしょう?」
と、自信満々のミュー。
ミュー 「ザッハトルテとか巴旦杏(ケルシー)のケーキとかフランクフルター・クランツとか…♪」
ゴードン 「しかしお前、スイーツのレシピをよくそんなに知っておるな」
ミュー 「未だ人間でした頃、近所にアンネローゼという、とても料理上手な女性が居りましてね。彼女から色々教わったのですよ♪」
クィーン 「甘いものはほどほどにしてくれよ、ミュー」
苦笑いをするクィーン。
ゴードン 「では俺は力仕事担当だな。風呂洗いとかも任せておけ!」
ゼーロス 「…早速ですが、私めの部屋のドアのたてつきが悪いようでして……」
ゴードン 「おぅ。見てやろう!」
一方。
他の人たちは、と申しますと。
「キスも出来ぬ小心者のお前など、大~~~~~ッッ嫌いだ!!!!!」
バチーーーン!!!
パンドラの平手打ちを喰らい、最愛の姫にふられて魂の抜け殻のように成り果てたラダマンティスと、そのような体たらくの上司を支えるようにして帰ってきたシルフィード。
すっかり腑抜け状態のラダマンティスは、部下たちの必死のフォローで何とか立ち直り、今ではシェアハウスで部下たちと共に独身ライフを満喫しております。
(パンドラを大事に想うあまり、キスする事さえ躊躇しましたのにね・°・(ノД`)・°・このまま、諦めてしまいますの?ラダ……)
傷心のバレンタインは。
現在、何処に住んでいるのかは不明ですが、カイーナにはきっちり出勤します、真面目を絵に描いたような漢です。
一輝を追って、はるばる日本へ渡っていたパンドラは。
「パンドラが居らぬと、 冥界は立ち行かぬ……戻って来てくれまいか?…姉上」
ハーデスに泣き付かれ、一輝に心を奪われつつも、以前と変わらず冥界の運営と、108の冥闘士を統括しております。
君主であるハーデスを欺いても、何らお咎の無かった猟師・アイアコスは。
ハーデス城にパンドラや、主立った冥闘士らが居ない時分を見計らい……
あの、人騒がせな魔法の鏡を、総身の力を込めたガルーダフラップで、粉々に打ち砕いたのでありました。
【Happy ending (←?;)】
唐突に生家が恋しくなった冥王ハーデスは。
己の小宇宙を消して、地上のハーデス城を訪れました。
パンドラ達に気付かれぬよう、抜き足、差し足で小屋根裏部屋を目指し…、
「おお!!まだ残っておった!懐かしのぅ……」
と、『魔法の鏡』に長い年月の間に積もった埃を払うと、自身の姿を映してみました。
「ふふ…。余が幼き頃は、パンドラと『鏡よ鏡、冥界でいちばん美しいのはだ~~れ?』などと、よく遊んだものだったな……」
すると。
『それはパンドラ様でございます』
鏡は答えました(ずっと放っておかれても、魔法は機能していたようです)。
「な…なんとっっ!!!Σ(゚д゚;)」
ハーデスは、少なからずショックを受けました。
自分の容姿に絶対の自信を持っていたからです。
ダダダダダー、と、小屋根裏部屋からの階段を駆け降り。
城内の、パンドラの私室の扉をバーーーンと開けました。
「ハ、ハーデス様!何時の間に地上においでに……」
「…パンドラ。別居しようではないか…」
…別居って、ハーデス様。
貴方、殆どエリシオンにいらっしゃいますのでは……( ̄□ ̄;)
「ハーデス様の仰せとあらば、致仕方ございません。わたくし、お暇させて頂きます」
パンドラは荷物をまとめ、ハーデスに深々と頭を下げると、城を後にしました。
窓から少しさみしそうにその様子を伺っていたハーデスは。
アイアコス(=猟師)を召喚しました。
「…なんで俺が猟師の役なんですか~、ハーデス様」
開口一番、アイアコスは君主に向かってぶーぶー文句を投げ付けました。
「仕方がなかろう。ラダマンティスはパンドラを殺めなどせぬと断言出来るし、ミーノスは後で出番があるのだ。お前しか適任者はおらん」
「そ、そーすか?;で。パンドラ様殺して肝臓持って来りゃいいんでしょ?」
「左様である……しかし、アイアコスよ。卿のその言葉遣い、何とかならぬのか…;」
「すいません、俺、天然なんで」
その天然さを許してしまう、寛大な、偉大なるハーデス……
ジーク マイン カイザー!(違;)
「ハーデス様はああ仰ったけどさーー、俺だってパンドラ様を殺すなんて事、無理・ムリ・むり!!!!!」
そこでアイアコスは、街の肉屋に立ち寄り。
「すいませーん。牛レバーくださーい!」。
ハーデスに、肉屋で買い求めた牛レバーを差し出したのでした。
「うむ。大儀であった!」
アイアコスを労いつつ、
(パンドラ……とうとう、このような姿になってしまったか…)
と、ぼろぼろと落を零すハーデス……。
貴方、ひょっとすると自分を育て、慈しんでくれたパンドラを姉として愛しているのでは…^m^
一方。
ハーデスから別居を告げられたパンドラには行く当てがありました。
「男子ばかりでむさくるしそうな処ではあるが……ハーデス様のご機嫌が直るまで、我慢致すか」
ハーデス城から少し離れた深い森に建つ、一軒の小屋……とは呼べぬなかなか立派なログハウス。
そこには、主にラダマンティスの部下たちで結成された、寄せ集めの『六人の巨人と一人の小人』が顔を合わせていました。
シルフィード 「ハーデス様の気紛れにも困ったものですねぇ……」
バレンタイン 「…我らはラダマンティス様に絶対の忠誠を捧げておるが、真の君主はハーデス様であったな…」
ゴードン 「バレ。忘れてたのか?…ってまぁハーデス様はいつもエリシオンでお眠りだしなぁ」
クィーン 「……俺は『巨人』の部類には入らぬと思うんだが;」
ゼーロス 「よろしいではございませんか。私などめは『小人』でございますよ )`ε´( ブーブー」
ルネ 「…私など、頭数揃える為にわざわざ召集されたのですよ……・°・(ノД`)・°・」
ミュー 「ドアを叩く音が!も、もうあのお方がおいでに…((((゜д゜;))))」
ミューの言葉に、その場に居合わせた全員が凍り付きました。
案の定、ドアの外に立っていたのは、大きな荷物を持ったパンドラでした。
「今日からここで世話になる。皆の者、よろしく頼む」。
元々、お姫様育ちのパンドラは。
両親が健在の頃は、使用人に傅かれ、冥王の現世での姉となってからも、冥界の雑兵らによって上げ膳据え膳の生活を送って来ました。
ゆえに。
家事など殆ど出来ないに、等しいのです。
六人の巨人と一人の小人は。
公だけではなく、プライベートでも彼女に顎で使われる羽目となりました。
ああ、哀れな巨人たち+小人よ……。
或る日曜の昼下がり。
巨人たちと小人は休日出勤で皆、出払っているといいますのに。
パンドラは、ログハウスでひとり悠々と。
琴の師匠の来訪を待ち倦ねておりました。
「失礼仕ります。こちらは、冥王ハーデス様の姉君・パンドラ様のお宅に間違いございませんでしょうか?」
扉の外から、涼やかな声が響きました。
「私の家ではないが。私が滞在しておる家に違いはない。そなたが琴の名手だと申すオルフェか?」
「はっ。パンドラ様」
…このオルフェこそが。
ハーデスが遣わした、新たな刺客だったのです。
数日前。
再び、ハーデス城に姿を現したハーデスは。
上機嫌で、魔法の鏡に問い掛けました。
「鏡よ鏡、鏡さん♪冥界でいちばん美しいのは、誰だ?」
『それはパンドラ様でございます』
「な…何っっ!!!Σヽ((◎д◎;;))ゝ……で、では、パンドラはまだ生きて……!」
今度こそ。
パンドラを葬り去ってくれよう……ぞ。
い、いや。
殺害するのは忍びない…。・°・(ノД`)・°・
…ハーデスの決心は鈍く。
取りあえず、姉を永遠の眠りにつかせるよう、オルフェに命じたのでした。
(どうやら、ハーデスは肝心な事を忘れているようです。オルフェの必殺技『デストリップ・セレナーデ』は技を仕掛けられた相手が10日間余りしか眠りにつかない、という事を…;)
ログハウスでは。
オルフェが奏でる琴の素晴らしい音色に。
パンドラは何時の間にか、うとうとと眠りに誘われてしまいました。
夕刻 になり。
巨人たち+小人が帰宅して、いくら彼女を揺り起こしても。
パンドラが目を醒ます事は、決してありませんでした。。。
クィーン 「はぁ~~~、何かホッとしたって言うか。これで俺たち、こき使われることもなくなるんだなぁって……」
クィーンに同意して、一人を除く巨人たち+小人はうんうん、と首を縦に振りました。
バレンタイン 「滅多な事を言うものではないぞ、クィーン。……ラダマンティス様が、どんなにかお悲しみになられるかと思うと、私は…」
と、涙ぐむのはバレンタインのみ。
しかも、パンドラが目覚めぬからではなく、主(=ラダマンティス)を憐れんで涙する、といいます……σ(^_^;)
巨人たちと小人は、これまた取りあえず、ガラスの棺の中にパンドラを入れ、庭に飾っておきました。
(エンバーミングは為されなかったのか?との突っ込みが入りそうでございますが!笑)
棺を取り囲み、お義理程度に悲嘆に暮れていた巨人たち+小人の前に、葦毛の馬に跨り、銀色の、長い髪を靡かせながらノルウェーのミーノス王子が艶やかに現れました。
「ほぅ…これは、何とも美貌の姫ですねぇ……」
と、少しばかり気障に、感嘆の吐息を漏らしました。
が!
続けて。
「ですが私は、大変失礼ながら黒髪の女性は好きはありません。性格がキツく見えますので…。(※『銀河英●伝説』のキルヒアイスの台詞とほぼ同義)」
と、黒髪女子全員を敵に回すような本心も、遠慮なく口にしました(笑)。
「おや?……そこのあなた!」
ミーノス王子は、自身と同じ銀色長髪の、まるで少女のような見目形の巨人の一人に目を留めました。
「は?私でございますか?」
「名は、何というのです?」
「ル…ルネと申します、王子様……」
俯いて、どきどきと胸の鼓動を高まらせながら、ルネは名乗りました。
「申し訳ありませんが、私は白雪パンドラ姫よりも、このルネという巨人の方がどストライクで好みなのです。ルネ…私と一緒に参りませんか?」
「よ、喜びまして……」
ルネは含羞みつつ、承諾しました。そしてミーノス王子は、ルネを馬に乗せると手に手を取り合い、行ってしまいました。
次なる王子は。
白馬に乗ったギリシアのミロ王子。 その名の通り、ミロス島の海を彷彿とさせるロイヤルブルーの癖の強い髪と、空色のマントを翻し、颯爽と姿を見せました。
「おぉ、何と美しい姫なのだ。一寸冷ややかな印象だが、まるで月の精のような」
彼は諸人が抱くであろう、ごく自然な感想をさらりと口にしました。
ミロ王子は、白雪パンドラ姫に果してキスをするのでしょうか?
「しかし、私にはお仕え申し上げる沙織姫というお方が居られるのでキスは出来ん。……許せ!」
どうやら、ミロ王子には心に決めた姫が既に居たようです。
王子は馬から降り、棺の上に真紅の薔薇を一輪供えると、済まなさそうな面持ちで一礼してから、再び白馬に跨って行ってしまいました。
「次こそはきっと、我らがラダマンティス王子……真打ちのご登場だな!!」
ゴードンが期待を込めて目を輝かせると、一人を除く巨人たち+小人は跳び上がらんばかりに喜色を露わにしました。
シルフィード 「ようやく…ラダマンティス様の恋が報われる時が来たのですね……」
ミュー 「おふたりには、お幸せになって頂きたいものです」
クィーン 「…パンドラ様を早々に引き取って頂かないと;;」
ゼーロス 「……カカァ天下になりますのは、間違いなさそうでございますが。お可哀相なラダマンティス様ですなぁ。ケケケッ・・・」
ゴードン 「良いではないか!好いたお方と一緒になれるのだから…」
このような男子トークに参加しておりません人物が、ひとり居りました。
先程から押し黙ったのままの、バレンタインです。
さあ!いよいよ、大本命とも言うべき王子が……!
眉毛の繋がった、けれども精悍な相貌の、英国のラダマンティス王子が栗毛色の馬を美事な手綱さばきで操りながら、登場しました。
彼は馬を降り、白雪パンドラ姫の眠る、ガラスの棺に跪くと。
今にも落涙せんとばかりにうるうると瞳を潤ませながら、
「おおお……花も恥じらうであろう麗しいこのかんばせ、淡紅色の頬、滝のように流れる豊かな御髪…とても亡くなっているとは思えぬ。そ、その……だな。キ、キスしても……構わぬだろうか?」
声を戦慄かせて、ラダマンティス王子は巨人たち+小人に問いました。
「勿論でございますとも、ラダマンティス様!!!」
「さぁ、どうぞお早く、パンドラ様のお眼を醒ませて差し上げてくださりませ!!」
巨人たちがガラスの棺の蓋を取り…
そぅーーーっと、パンドラに顔を近付けるラダマンティス王子を見……、
「うわああぁぁ~~~!!!や、やはり……私には耐えられないいぃ~~~!!!!!。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。」
突如泣き出したバレンタインは、瞬く間に森の奥深くに走り去って行きました。
「…男色家だったのか、バレのやつ」
「そうらしいなー、って本人の自由だから別 にいんじゃね?」
「まぁ、そーだな」
同僚たちは淡々とした意見を口々に交わしました。
誰も、バレンタインの失恋を不憫がってはいないようです。
嗚呼!いとあはれなりけりバレンタイン……。
このような、一寸した(酷;)アクシデントに見舞われましたが。
ラダマンティス王子は、パンドラにキスするのを躊躇いまくりでしたので、最も忠誠心厚い部下の哀しみに気付く余裕など全くありませんでした(ますます、酷!;)。
「し、しかししかししかし、だな!!!パ、パンドラ様の唇を奪うなど…そそそ、そのような畏れ多いことを、俺がして良いものかどうか…!」
何とも煮え切らない漢・ラダマンティス。まぁ、愛しいひとを心底大切 に想っている証拠かもしれませんが。
あ~~~、もぅ、もどかしい・間怠こしい・焦れったい……!!
巨人たち+小人が内心いらいらしながら(笑)、今か今かとキスの瞬間を待っているところへ…
ところへ!
黒駒を疾風迅雷に駆らせ、炎のように燃える、熱い小宇宙を持った、日本の一輝皇子がやって来ました。
「さっきから歯痒いぞ、金髪の孺子。邪魔だ。どいていろ!」
「だ…っ、誰が金髪の孺子だ!!!」
一輝皇子は反撥するラダマンティスを退かせると、カンペを見ながら、台詞を棒読みしました。
「おぉ、清らかなる、美しき姫。俺のキスで目覚め給え!」
そしていとも容易く、白雪パンドラ姫にキスをしました。
「~~~~~!!!!!!!!!!」
「あああああ゛ッッ!!!」
金魚のように口をぱくぱく開けたまま、何も言えないラダマンティス王子。
今後の展開が怖ろしくて、言葉にならない声を上げた巨人たちと小人。
「…私を眠りから醒まさせたのは……お前か?」
瞼を開いたパンドラは、自身の顏のすぐ間近に迫っていた、一輝皇子に訊ねました。
「ああ、俺だ」
素気なく答えた一輝皇子は、ひらりと黒駒に飛び乗ると、さっさとその場を離れようとしました。
「ま…待て!お前、名は何と申すのだ?!」
「一輝だ。フェニックス一輝」
「い…一輝。私と夫婦(めおと)になってくれ……」
ひいいいいぃぃ~~~~~!!!!!(←※ラダマンティスと部下たちの、内心の声)
ラダマンティス王子と巨人たち+小人は、エドヴァルド・ムンクの『叫び』状態に!!!
「悪いが、俺の心には死んだエスメラルダしか居らん。では、さらばだ!…はっ!」
黒駒の腹を蹴り、一輝皇子はまるで嵐の如く、荒々しく土煙を巻き上げて去って行ってしまいました。
「…シルフィード!」
がばっと勢い良く上体を起こすと、パンドラは強い声音で巨人のひとりの名を叫びました。
「は、シルフィード、ここに」
「私を抱えて、フェニックスを追うのだ。急げ!」
「は…はっ!!」
シルフィードは命令されるがまま、パンドラの腰を両手で抱えると、一輝皇子の走り去った方角へ向かい、地を蹴って飛び立ちました。
……あんまりな事の成り行きに、暫し、ただ呆然と立ち尽くしていたラダマンティス王子でしたが。
「お、おのれ~~~、フェニックスめ!パンドラ様に口づけなどしおって!!…俺だって、俺だってまださせて頂いたことがないと申すのに!!!絶対に……許さぬ!!!!!」
込み上げてくる憤激に両の拳をぶるぶる震わせつつ、瞬時にして翼竜の冥衣を纏うと、一輝皇子とパンドラたちの後を追い、大空へ飛び去って行きました。
…取り残された巨人たち+小人は(随分人数が減りましたわねぇ)。
ミュー 「パンドラ様がいらっしゃらなければ男子ばかりの生活というのも気兼ねがなくてなかなか快適なものですね」
クィーン 「このまま住んじゃおうか?ルネはミーノス王子に見初められたから別として……、バレとシルフィード、戻って来るかな~?」
ゴードン 「それは分からんが…シェアハウスか。いいな!」
ミュー 「私は、料理を担当しますから。特にデザート、美味しかったでしょう?」
と、自信満々のミュー。
ミュー 「ザッハトルテとか巴旦杏(ケルシー)のケーキとかフランクフルター・クランツとか…♪」
ゴードン 「しかしお前、スイーツのレシピをよくそんなに知っておるな」
ミュー 「未だ人間でした頃、近所にアンネローゼという、とても料理上手な女性が居りましてね。彼女から色々教わったのですよ♪」
クィーン 「甘いものはほどほどにしてくれよ、ミュー」
苦笑いをするクィーン。
ゴードン 「では俺は力仕事担当だな。風呂洗いとかも任せておけ!」
ゼーロス 「…早速ですが、私めの部屋のドアのたてつきが悪いようでして……」
ゴードン 「おぅ。見てやろう!」
一方。
他の人たちは、と申しますと。
「キスも出来ぬ小心者のお前など、大~~~~~ッッ嫌いだ!!!!!」
バチーーーン!!!
パンドラの平手打ちを喰らい、最愛の姫にふられて魂の抜け殻のように成り果てたラダマンティスと、そのような体たらくの上司を支えるようにして帰ってきたシルフィード。
すっかり腑抜け状態のラダマンティスは、部下たちの必死のフォローで何とか立ち直り、今ではシェアハウスで部下たちと共に独身ライフを満喫しております。
(パンドラを大事に想うあまり、キスする事さえ躊躇しましたのにね・°・(ノД`)・°・このまま、諦めてしまいますの?ラダ……)
傷心のバレンタインは。
現在、何処に住んでいるのかは不明ですが、カイーナにはきっちり出勤します、真面目を絵に描いたような漢です。
一輝を追って、はるばる日本へ渡っていたパンドラは。
「パンドラが居らぬと、 冥界は立ち行かぬ……戻って来てくれまいか?…姉上」
ハーデスに泣き付かれ、一輝に心を奪われつつも、以前と変わらず冥界の運営と、108の冥闘士を統括しております。
君主であるハーデスを欺いても、何らお咎の無かった猟師・アイアコスは。
ハーデス城にパンドラや、主立った冥闘士らが居ない時分を見計らい……
あの、人騒がせな魔法の鏡を、総身の力を込めたガルーダフラップで、粉々に打ち砕いたのでありました。
【Happy ending (←?;)】
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プロフィール
HN:
龍峰&お竜
性別:
非公開
自己紹介:
龍峰:ラダ最愛のパンドラ様。
お竜:ミロ最愛の浮気性。
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